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「魔法の箱」症候群

測定器は、「魔法の箱」ではありません。

基本的には、「放射線を数えている」だけです。

以下の例(ウラン系の核種を含む活性炭のスペクトル)では、細い縦の棒が沢山ありますが、これが、適当に分割されたそれぞれのエネルギー範囲のカウント数で、スペクトルを形成しています。単純な線量計では、これらの線の「見分けが付かなかったり、あえて違いを無視して」全部の合計のカウント数を使っています。


ガンマ線スペクトルは、「それぞれの(チャンネルの)エネルギー範囲に該当する放射線の数のグラフ」です。

そして、都合が良いことに、放射性物質は、「十分なカウント数があれば」
それぞれ(光電ピークやコンプトン散乱で出来た)独特のパターンを表します。

なので、スペクトルの形を見ると、慣れていれば、どんな核種があるか、
見ただけで検討が付く場合もありますが、良く分からない場合もあります。


また、特定の核種の有無や量を調べたい場合、それぞれ、こういうやり方をすると分かりやすい、という
戦術みたいなものが、何十年も前から色々と研究されています。

それらの詳細に入る前に、まず、放射能の測定には、「必ずバラつきがある」ので、完全に正確な方法、絶対に正確な結果は出ません。

しつこく繰り返しますが、「単純明快で完璧にぴったりの測定は出来ない、あり得ないの」が放射能測定です。
もう一度言いますが、完璧主義の人、潔癖症の人から見ると、「間違った値」しか出ないのが放射能測定です。

そして、何度、全く同じ条件で測定を繰り返しても、ほぼ絶対に、同じ結果が出ないので、「再現性」もある意味では限られています。

なので、それを承知の上で、出来るだけ正確な測定をしようとして、昔から色々と苦労しているわけです。

(汚染が)「有るのか無いのか、はっきりさせたい」「簡単に、手っ取り早く、白黒つけたい」という様な思いが強すぎると、
放射能測定には「はっきり分からない」、「白黒つけられない」という結果に終わることがあるのに我慢がならず、
大和魂や、心眼や、気合や、その他の夢の世界に逃げ込むことになったりしますので、
「良く分からない」という結果の場合に、直ぐにヤケ酒を飲んだりする必要が無い様に
「放射能測定の性質」に早く慣れた方が楽です。

また、厳密に言うと、これは放射能測定に限った話ではなくて、世の中は良く分からない事に満ちているのですが、
それだと、多分、怖すぎるので、色々と分かるつもりにしておきたい、というのが人情なのでしょう。


色々ある方法の中で、一番単純に思えるかもしれないものが、「ROI方式」とか呼ばれたりするものです。
(たとえば、IFKR系で「シングルチャンネル法」と呼んでいるものは、多分これでしょう。)

これは、目当てのピークを含む様なROI(region of interest)と呼ばれる「範囲、領域」を設定して、
そこの中のカウント数を全部合計して、検体の総カウント数(グロス・カウント)を求め、
それを検体の測定時間で割って、一秒当たりのレート(計数率)にし、
そこから、BG(バックグラウンド)のレートを差し引きます。

こうすることで、その特定範囲内で、BGのスペクトルよりも上の部分のカウント数(ネット・カウント)を求め、
そこに色々と補正を加えたり、事前に調べておいた係数をかけて、
その検体に含まれるお目当ての核種の放射能(ベクレル数)を求めることが出来ます。

その結果を検体の重量で割れば、多くの日本人が何故か大好きなBq/kgといった濃度が出ます。

この画像の例なら、検体のスペクトルのオレンジの箱の内側の部分について、一つ一つのチャンネルのカウント数を合計して、総カウント数(グロスカウント)を出します。それを測定秒数でわると、検体の計数率(グロスレート)が分かります。BG(バックグラウンド)についても、同じようにBGのカウント数を計算して、BGの測定秒数で割って、BGの計数率(レート)を出します。検体の係数率からBGの計数率を引くと、BG差分の計数率が分かります。

セシウム137については、そのピークの左側に、セシウム134のピークが
くっ付いているので、それらをまとめて計算し、セシウム134について
エネルギーの高い方のピークを使って求めておいて、
二つの合計からセシウム134の値を引いて求める、などなどの方法があります。

つまり、この方法の場合、行われていることは、結構単純で、
   お目当ての核種のROIの中の総カウント数(グロス)を合計する。
   測定時間で割って検体のレート(係数率)を出す。
   BGのレートを差し引いて、ピークの部分だけの(ネット)レートを出す
   ネットレートに補正をしたり、係数をかけて、放射能にする。
   検体重量で割って、単位重量あたりの濃度を出す。
という感じ。

魔法ではなくて、中学生なら十分に理解できる簡単な計算です。
足し算、引き算、掛け算、割り算だけ。

これらを理解するのに必要な、図形的な知識も、四角形と三角形の面積が
計算できると、まあ、なんとなく理解できる程度で、
やっぱり中学生か下手すると小学生でも分かる筈。

もちろん、もっと厳密には、ピークの形は釣鐘型で近似され、
ガウス曲線の面積とか計算できると、その方が良いですが、
その場合は、指数関数とか、平方根とか、統計の基礎知識とか、
「素人には、難しいかもしれない事柄」も出てきますが、
計算の仕組みの土台を理解するだけなら、「三角形もガウス曲線も
面積と高さが比例している、という点は同じ」なので、
理解の上では三角形でもって考えても良いのです。
(実際の計算で三角形を使ってしまうと、結果の数値が多少変わってしまいますが)

こんな風に、「測定器は魔法の箱ではない」ので、中でどんな計算が行われているのか、
全部は理解できなくても、要所は押さえる様にすると、「変な数値」に踊らされたり、
自分の測定の問題点や、自分の理解の不足している点、
機械やソフトのおかしな点などにも、徐々に理解が深まることでしょう。

また、「測定器は魔法の箱ではない」ので、測定器やソフトを作った人も、
魔法使いや神様仏様、崇め奉る必要のある権威などでは、「決して」ありません。

そして、人間の作ったものなら、「必ず」弱点や問題点や不具合などが存在します。

測定器を「魔法の箱」の様に感じたり、思ってしまい、メーカーやら開発者を
崇拝してしまうと、それは単なる宗教カルトになってしまいますので、止めた方が良いです。

どんな測定器にも、弱点や優れた点などが混在し、構造や計算の仕組みや、
色々な用途にとって、どの様な性能の組み合わせが有利なのか?とか、
総合的な知識や理解がなかったら、「簡単に測定器の優劣」なんて分からないでしょう。

しかも、そういう「優劣」は、「常に」、「特定の条件」においてだけ言えることで、
いつでもどこでもどんな状況においても成立する様な、「無条件」「普遍的な」優劣なんて、
測定器に限らず、存在しません。
まあ、そういう優劣があるかの様に言ったり思ったりする人間は、大変多いので困ったものですが、
他のことはともかく、測定というのは、結構ベタに数を数えて、計算しているだけ、
みたいなものなので、そこに夢やロマンや心眼や過剰な期待や売り文句や
その他の馬鹿げたタワゴトを混ぜない方がよろしいかと思います。

夢も浪漫もタワゴトも大いに結構なのですが、「測定」にそれらを混ぜたら、
もう、それって「測定」じゃなくて、単なる妄想の一部になってしまうし、
そんなことをしたら、御用学者の腐った混合物とどこが違うのか?ということに
なってしまうのであります。

なので、「数値」が欲しいなら、糞真面目に数え、計算し、確認し、
再確認し、別の方法で計算し、数値やその他の現象をつき合わせて見ましょう。

たかが「比率の違い」とか思わず、計算結果が違うなら、
「どこかに問題がある」というのを認識するだけの
勇気でも正直さでも何でも良いですが、ご対面しないと
「夢の世界」に行ってしまうことになります。

そして、上記の例は、「単純化」されていますが、
実際には、ROIをどこに設定するのか?ということ一つとっても、
それで結果が左右されるわけで、色々と考えるとどこまでも
深くなっていく可能性があって、そういう深さが測定器の構成要素や
計算の方法の隅々にまで含まれています。

なので、色々と検討すれば、勉強しないとならないことは沢山ありますし、
そういうことを良く知っているかどうかで、対応できる、理解できる範囲や深さが
決まってしまい、それ以上のことは、想像でしか言えなくなります。

そして、機械やソフトの能力の限界に近づけば近づくと、
必要とされる知識や経験が「飛躍的に増えていく」というのを
肝に銘じて、何度も繰り返し思い知った方が良いでしょう。

分かりやすい検体の「おおよそ」のことは、
多分、多くの人が想像するよりももっともっと簡単に分かったりしますが、
「微量汚染の測定」とかは、「別の次元」「異世界」だと思っても
そんなに間違いではないと思います。

なので、まずは、あんまり難しくない条件の測定でもって、
基本をしっかり学び、「その後で」徐々に、自分の限界を形作る
知識や経験の不足を補い、ゆっくり前進した方が良いでしょう。

色々とすっとばして、分かったつもりになって、
難易度の高い測定で見当違いの結果を出すのも、
「素人測定」なら別に構いませんが、
お金を貰って測定しようとするなら、それではマズイと私は思います。

Last modified : Sun Oct 4 11:12:15 2015 Maintained by nkom AT pico.dreamhosters.com