ガンマ線(X線)スペクトル解析において、核種のピークがずれる理由あれこれ
- 結晶の直線性が悪い
- PMT(光電子増倍管),フォトダイオードの直線性が悪い
例えば、 Sovtube Detector の場合、(磁気シールドなしで)縦置き(下向き)にすると、1.5MeV以上の高エネルギー領域が極端に潰れて左にずれる。
温度変化によってずれる場合も、直線的にずれるとは限らない。
- アンプの直線性が悪い
- MCA,サウンドカードなどの直線性が悪い
- サウンドカードMCAソフト(ベクモニ、ThereminoMCA)などの、パルス処理時のずれ
- 結晶や、検体の厚みなどによる、コンプトン散乱でピークが錯乱状態になる
- ずれてはいないんだけど、他のピークが混ざっていてずれてるように見える
対策
- ソフトによっては、3点とか、あるいはもっと多くの点を使って補正するものがあります。また、ソフトによっては、別に多少ずれていても(設定した範囲の中なら)ピークを検出して核種を判定して、定量までやるようです。私が通常使っている Identify Exe という解析ソフトは、手動で、このピークはK40,とか3点まで指定してやると、補正してくれます。また、Eu152を測って、そのピークで自動的に補正する、というのもあります。ただし、これらの機能は、設定画面で結晶の大きさや種類、外装の種類や厚さ、分解能などなど、ある程度正しい値をいれとかないと、ピーク検出すらうまく行かなかったり、定量に至っては全然違う値になってしまう、などなど、簡単ではありません。
- Theremino Mca の場合は、なんとオーディオおイコライザーみたいな幾つかのエネルギー領域に分けた補正の仕組みがあって、私も試してみましたが、今のところ使ってないです。原則的に、まず、加工されてない「生のデータ」を見て、それを保存しておき、必要に応じて加工したり、その結果をまた保存する、というのが好みだからです。ただ、テレミノMCAの場合、補正したヒストグラムのデータであっても、単にテキストファイルの最初のコラムに、各チャンネル(各行)に適当なエネルギーの数値が入るだけ、なので、元々のチャンネルデータが破壊されるわけではないと思うので、使うのも使わないのも各自の好みの問題かと思います。と言うのも、ThereminoMCA自体には、まだスペクトルの解析の為の強力な機能があるわけでもなく、今のところの主な役目はサウンドカードからのデータの収集と、スペクトルファイルの書き出しであって、その後のこと(ピーク検出、核種判定、簡易定量など)は、他のソフトの役目になる、と、思っているからです。もちろん、テレミノチームでも、ピーク検出や核種判定くらいまでは、今の「核種判定」機能よりも強力なものを搭載する予定があるようですし、私も出来ることがあったら協力しようと思っていますが、まだ、いつのことになるかわかりませんので、当面は、Identify.exeを使おうと思っています。
- あきらめる: これは、こまかなピークのずれは、こまかな核種判定や定量などをやろうとすると問題になってくることで、ぱっと見て、「あ、これはK40,こっちはCs137]と、分かるようなピークを扱っているのであれば、素人測定の目視スクリーニングをやっている限り、大きな問題にはならないと思うからです。また、直線性が悪くて、2MeV以上が大きくゆがんでいたりしても、そのあたりが鍵になるような測定をしているのでなければ、そんなに問題になったりしないと思います。もちろん、全て完璧な測定が出来れば、それに越したことはありませんし、やるからには出来るだけ「正しい」測定をしたいという欲望は私もあるのですが、「主な測定目的」に必要のない部分にあんまり固執しても、時間と労力の浪費になる場合もあるので、素人測定の「優先順位」を忘れずに、自分にとって大事な点から攻めていこうと私は思っています。
- あがく: これは、単に「測定マニア」としての心情を優先するのであれば、たとえばPMTの分圧抵抗の精度、などから一々確認したり、そういうところもいじって、最終的な直線性が得られるように工夫する、とか、いくらでも出来ることはあるのだろうと思います。PMTの場合、どうも「適切な磁気シールド」は、直線性の点でかなり重要なように思いますので、宇都宮さんのサイトなどを参考にして、そういう点から対策を進めていくと良いかもしれないでしょう。また、「測定マニア」の人が何人も居て、細部にわたって色々と検証したりするのは、他の人たちにとっても後々役にたつと思いますので、私も、気になりだすと「低エネルギー領域」にこだわってみたり、逆に高エネルギー領域でどんなことが起こっているのか見てみようとしたり、道草をくいながらあれこれ試しています。「アマチュア」「素人」は、別に国民の皆様の税金から予算を頂いてやっているのではございませんし、自分の好きなように、気が済むまでやれる、という大きな利点があります。私は、その利点を最大限に行使して、まずは、自分が満足できる測定をしたいと思っているので、「あきらめる」と「あがく」の両方を場合によりけりで選んだり、混ぜたりしています。