不確かさ(誤差)などについて
測定には、必ず不確かさがついてまわり、特に放射能測定の場合には、
放射性物質の崩壊が「とっても気まぐれ」なので、その影響を強く受けます。
更には、素人測定でしばしば問題となる、微妙な汚染、自分の測定器で
ぎりぎり捉えられるかどうか、という様なレベルの汚染では、
汚染物質が作る(かもしれない)ピークに相当する部分のカウント数も
とっても微妙で、ぎりぎりの数しかなかったりするので、
放射性物質の気まぐれな性質によるスペクトルのばらつき(ギザギザ)と
ピークかもしれない部分の判別が「とってもビミョー」になったりします。
なので、特に定量的な推測をしたいならば、
ばらつきがどんな風に収まっていくのか?というのを
数値的に理解しておくと、どれくらいのピークまで
はっきりと判別できるのか?とか、色々とわかりやすくなります。
素人が特に注意した方が良い点
放射能測定でもそうですが、科学や技術分野の「用語」は、素人が日常的に理解するものとは
意味が違う「業界用語」の場合がほとんどなので、一見、日常的な会話や文章に思えても、
実は、全く違うことを意味していたりするので注意が必要です。
たとえば、日常会話で「面積」と言えば、図形の面積のことが多いわけですが、
放射能測定で「ピークの面積」とか言う場合は、ピーク部分のカウント数の合計だったり、
それを測定秒数で割った計数率であったり、曲線をフィットさせて計算したものであったりします。
こういう点に慣れていなかったり、注意しないと、「ピークの面積を計算する」という表現を、
日常的な意味で解釈してしまって、一生懸命四角や三角などなどを当てはめて、
平方ミリメートルで計算する、という方法を開発してしまう例も見られます。
「不確かさ」や「誤差」などについても、素人が想像するのとは違う、定義があったり、
学問分野や技術畑で異なる用法があったり、専門用語としての使い方と、
日常的な用法が同じ文書に混在していたり、それらが、時代と伴に変化したり、
真面目に調べだすと結構面倒です。
面倒でも、詳しく知らないと気が済まない場合には、ネットなどで検索したりして、
色々な文書を読むと、徐々に分かってくるかと思いますが、通常は、そんな時間も、
興味もない場合が多いかと思いますので、最小限必要な情報と、多少の予備知識を
持っていれば良いでしょう。
スペクトル測定に必要な計算や用語や単位のおさらい
- 放射能測定は、セシウム137とかの放射性物質が崩壊する現象を測ります。
ただ、測定器が全ての崩壊を捉えられるわけではなく、20回崩壊したら1回捉えられる、とか、
測定器や測定条件で決まる「ほぼ一定の割合」で計測できるものとされています。
- 「測定器によって捉えられた崩壊の回数」を、「カウント」や「カウント数」、「計数」などと呼び、単位は「カウント」「counts」「cts」などと書いたりします。
テレミノMCAでは、「測定器は、崩壊を捉える時に出る電気パルスを数えている」ということから
「パルス数」と表現されていますが、同じことです。
この様に、「美人」「べっぴん」「麗人」などなどと色々な言い方があるように、単純なカウント数でも
色々な呼び方や書かれ方をされますが、「その言葉が、単位が、何を指しているのか?」というのを
意識して、はっきり分かっていれば、問題ありません。
- 測定した時間は、秒数で表すことが多く、「秒」「seconds」「sec」などと書かれます。
秒数を60で割ると、分数になり、3600で割ると、時間数になり、86400で割ると、日数になります。
- 一定時間でのカウント数の割合を出すと、色々な比較や計算がしやすくなり、スペクトル測定では「1秒当たりのカウント数」「計数率」「レート」などと呼ばれ、単位は、「cps」(カウンツ・パー・セコンド)、「カウント/秒」「回/秒」「パルス/秒」などと書いたりします。
ガイガーカウンターなど、感度が低い測定器では、「CPM」(カウンツ・パー・ミニュットゥ、1分当たりのカウント数)が良く使われますが、スペクトル測定に使われる機械ではそれだと大きな数字になり過ぎたりしますし、測定器の調整などの際の時間間隔も「毎秒」やさらに短い時間を扱ったりするので、「秒」を基本単位にする習慣が出来たのでしょう。
1CPM(伝統的に、大文字で書かれる場合が多い)つまり、「1カウント/分」は、60cps「60カウント/秒」です。
セシウム137の様な放射性物質が崩壊すると、「電磁波」や「粒子」などが出てきます。
(ガンマ線)スペクトル測定では、(主に)ガンマ線と呼ばれるものを計測していて、電波や光と基本的に同じ性質のものです。
「電磁波」という呼び方をされることもある電波や光、そしてX線やガンマ線は、波長が違うだけで基本的には同じ様な現象です。
- スペクトル測定では、この波長によるエネルギーの高低でガンマ線を左右に振り分け、単位は「keV」(キロ エレクトロン ボルト)が良く使われます。
「keV」の他に、もっとエネルギーの高い方を扱ったりする時などは、その1千倍の「MeV」(メガ エレクトロン ボルト)を使うこともありますし、逆にエネルギーの低い方では、ただの「eV」(エレクトロン ボルト)を使うこともあります。
- ガンマ線スペクトル測定のグラフでは、左右に伸びる横軸がガンマ線のエネルギーで、単位は「keV」(キロ エレクトロンボルト)、上下に伸びる縦軸がカウント数か計数率(レート、cps)の場合が多いです。
つまり、ガンマ線スペクトルというのは、それぞれのエネルギーで、崩壊が観測された回数やその一秒当たりの割りあいを表していて、仕組みとしては、「(単純な)統計のグラフ」となっています。
もう少し詳しく言うと、測定器やソフト、そしてそれらの設定によって、一定のエネルギーの間隔でもって「チャンネル」「ビン」などと呼ばれる区間に分割し、捉えられたパルスを振り分けて数えたり、それを測定時間で割ってレート(計数率)に変換したりして、結果を棒グラフにしたり、点グラフにしたり、左右の点を結んだ線グラフにしているわけです。
「統計グラフ」として、分かりやすいのは、棒グラフかもしれませんし、点グラフを好む学者さんなども多かったりしますが、視覚的に複数のスペクトルを比べたい場合は、線グラフが分かりやすい様に私は思います。
テレミノMCAでは、好みや用途に合わせて、この三つのいずれの方法でも表示することが出来ますし、ボタンを押すだけで、簡単に変更できます。
放射性物質の崩壊は、出鱈目でマダラメの間隔で発生すると言われています。ただし、回数を重ねると、その平均は、特定の間隔に落ち着いてくることが知られています。
- たとえば、スペクトルの中のとあるエネルギーのチャンネルに注目すると、そのレート(計数率、cpsの値)は、測定を始めてすぐは大きく上下に変動し、次第に変動の振れ幅が少なくなり、落ち着いてくる。
これは、ガイガーカウンターの値、個々の測定だとバラツキが激しいのに対し、何度も測定して平均を出したりすると落ち着いてくるのと、全く同じことです。
- スペクトルの全体としては、それぞれのチャンネルが最初は大きく上下に暴れるので、大きなギザギザの形から始まり、そのギザギザの幅が徐々に小さくなっていきます。
測定器やソフト、そしてそれらの設定によっては、チャンネルの幅に違いがあり、このギザギザが、ゲジゲジや草むらの様に密生した感じになるものや、もっとまばらになっているものがあります。
一般に、各チャンネルに割り当てられたエネルギーの幅が狭いほど、それぞれのチャンネルに振り分けられるカウントの数は小さくなるので、スペクトルが落ち着くのに時間がかかることになりますし、チャンネルの総数も多くなるので、機械のメモリーや計算能力がより多く必要とされます。
この為、携帯用の測定器では、チャンネルの幅を大きくしてチャンネルの数を減らすことで、メモリーや計算能力が少なくて済む上、スペクトルが早く落ち着くような設計や設定の機械が多かったりします。
また、測定器に使われている結晶が小さかったり、感度が低い場合にも、チャンネルの幅を大きくすることで、早めに測定結果がまとまるようになっていたりします。
素人測定で使われるシンチレーターを使った測定器では、「分解能」と呼ばれるエネルギーの違いを見分ける能力があまり高くないので、チャンネルの幅を狭くしてやたらと沢山のチャンネルで測ってグラフにしても、本当に細かいことが分かるようになるわけではありません。
これに対し、高純度ゲルマニウム(HPGe)を使った検出器などでは、分解能が高いので、沢山のチャンネルがある設定でないと真価を発揮しません。
つまり、測定器の種類や感度、測定する検体の汚染などに合わせて、適切な設定にしないと、解釈しやすいスペクトルやデータが得られません。
- 各チャンネルでのバラツキの上下の幅は、そのチャンネルでのカウント数によって変わり、カウント数の「標準偏差」で推測できます。
放射能測定に於いて、あるチャンネルでカウント数がN回の時、「標準偏差」は√N(ルートN,Nの平方根)に近くなるので
例えば、あるチャンネルで16カウントある場合、標準偏差は4カウントほどになります。
また、そのカウント数+−標準偏差の範囲に68%ほどの確率で測定値が収まり、+−標準偏差の2倍に約95%、標準偏差の3倍の範囲に約99.7%が収まります。
「どうしてそうなるの?」というのは、結構面倒で、一見偶然に、バラバラに起こるようなことでも、回数を重ねると
決まったパターンに落ち着く場合があって、その統計を調べると放射性物質の崩壊の場合は、ポアッソン分布というパターンになっているそうです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%A2%E3%82%BD%E3%83%B3%E5%88%86%E5%B8%83
で、回数がある程度大きいと、このポアソン分布は、正規分布というものに近くなるので、それで代用すると、計算が簡単になり、
正規分布の性質から、色々な推測をしたり計算をすることが出来る様になるのだと思っていれば良いでしょう。
- ばらつきをレート、計数率で考えた方が便利な場合も多く、測定秒数をt秒、カウント数がN回の時、計数率はN/t cpsになり、標準偏差はルートN(√N / t) cpsになります。計数率をn cpsとすると、標準偏差は √(n/t) cps (計数率 n を 測定時間 t 秒で割って、その平方根を計算したもの) になります。
測定所などの結果を見たりする場合、測定結果に不確かさや誤差が記入されているのが普通ですが、その考え方や計算方法は業界の伝統や学問分野の慣習や時代によっても変化するので、注意が必要です。
放射能測定の場合、「標準不確かさ」、「拡張標準不確かさ」、などの記述がある場合、最近はやっている「不確かさ」に基づく記述と見て良さそうで、色々な不確かさを生む要因の標準偏差などを使って不確かさの「合成」を行い、その結果得られた標準偏差をギリシャ文字の小文字のシグマ(σ)で表し、その2倍(k=2と明記されていたり、95%と書かれていたりする)の拡張標準不確かさが測定値に続く+−の後に書いてあると思ってよいでしょう。
以下工事中
- カウント数に着目すると、標準偏差は、カウント数の平方根。
√N カウント
- レート(計数率)に着目すると、標準偏差は、カウント数の平方根を測定時間で割ったもの、または、レートを測定時間で割ったものの平方根。
√N カウント / t 秒 = √(N カウント / tの2乗 秒) = √(n cps / t 秒) = √n cps / √t 秒
- レート(計数率、単位はcps)は、ほぼ一定の値なので、変化するのは、測定秒数の平方根だけ。
- 例えば、セシウム137の662keVのチャンネルで0.01cpsあるとすると、√0.01cps = 0.1cps なので、1秒の測定なら0.1cpsが標準偏差、4秒測るとその2ん分の1、16秒測ると4分の1、となる。
- で、この標準偏差の+−の範囲に、約68%の確率で収まり、標準偏差の2倍の範囲に、約95%の確率で収まり、標準偏差の3倍に、約99.7%の確率で収まる。
- BGとの差分の場合、BGの標準偏差の2乗と検体の標準偏差の2乗を足して、その平方根が標準偏差になる。
BGの標準偏差 √(nb cps / tb 秒)の2乗は、(nb cps / tb 秒)。検体の標準偏差 √(n cps / t 秒)の2乗は、(n cps / t 秒)
なので、√((nb cps / tb 秒) + (n cps / t 秒))
- BGと検体のレートにほとんど差がない微妙な検体の場合、nb と n はほぼ等しい。BGと検体の測定時間も等しい場合は、BGの標準偏差の√2倍。
- 通常は、検体のレートの方が大きく、検体の測定時間の方が短いので、検体の標準偏差の方が大きい。
参考資料
放射能測定に必要な情報が凝縮されているページ
Atomicaのページ
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-04-03-18
標準偏差と標準誤差の関係 (スペクトル測定の場合、両方が同じなので、面倒が少ない反面、ごっちゃになりやすいかも)
「まともな測定」をしている筈の人たちの為のガイド。素人測定でも、真面目に定量したい人は、これを読んで確認した方が良いかも。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/data_reliance/maff_torikumi/pdf/rad_kensyu.pdf
色々と凝縮されています。