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(再び)スペクトルのギザギザについて Giza giza

スペクトルの形成のページでも書きましたように、(特にスペクトルの出始めの)ギザギザは、
測定におけるバラツキのなせるもので、ガンマ線を出す放射性物質の「指紋」のようなものである「(光電)ピーク」ではありませんが、
慣れないと、あるいは、測定や測定器に対する「期待」が大き過ぎたりすると、どうしてもギザギザやヒゲが「ピーク」に
見えてしまいがちです。

ギザギザをピークを思ってしまうのは、スペクトル測定を始める多くの人に見られる誤解ですが、スペクトル測定の学習を妨げる
とても大きな要素になりますし、勘違いの雪ダルマを生んで転がりだす場合もありますので、注意するようにしましょう。

「重症患者」になりますと、何ヶ月経ってもギザギザに色々な現象を見出し、「大発見(の勘違い)」を重ねるばかりか、
自分自身の労力や時間を浪費するだけでなく、よく知らない人に混乱を招いたり、同じ様な誤解や期待を「感染させてしまう」例も
残念ながら発生した事があります。

「スペクトルが順調に成長するとどうなるのか?」という点をしっかり心得ていれば、この様な勘違いに捉われる必要などありません。

ギザギザの意味

ガイガーカウンターの出す値でも、あるいは、スペクトルを形作る個々のチャンネルの(毎秒の)カウント数でも、
測定を開始した直後はバラツキが非常に大きく、時間が経つとこれが段々収まってきて、理想的な場合は、徐々に収束します。

従って、スペクトルの「ギザギザの上下の幅」が、その時点での、そのエネルギー領域での、バラツキの度合いを表していると考えて良いでしょう。

つまり、(特に)ギザギザの上下の幅を超えないような微細な凹凸や数本のヒゲは、「その時点では」まだまだ確かなものではなく、
少し時間が経てば、収束して消えたり変化してしまう可能性がある
ということでもあります。

時には、ギザギザの幅を超えるヒゲが、しばらくすると消えてしまうことも良くありますので、ヒゲやギザギザの様相には、
あまり惑わされないようにして、「しばらく様子を見る」様にしましょう。

ピークの形

バラツキによるギザギザと同様、ピークの頂点の形も、スペクトルが滑らかになって、「不確かさ」が減ってくれば、
丸みを帯びて、「釣鐘型」に近くなってきます。

逆に言うと、尖っている、鋭角的なピークは、特にその高さに、まだまだ不確かさが残っており、スペクトルが収束していない現れだと思って良いでしょう。

バックグラウンドを差し引く場合

さらに、バックグラウンドのスペクトルを測定し、それを測りたいもののスペクトルから差し引く場合、
検体のスペクトルのギザギザに、バックグラウンドのスペクトルに残っているギザギザが加わって、一層「不確かさ」が大きくなります。
なので、バックグラウンドを比較的長い時間計測して、ギザギザが出来るだけ収束したものを使うと、測定の誤差を少なく出来ます。

理想的には、目で見て、完全に滑らか、まろやかになったスペクトルをバックグランドに使い、同様に滑らかになった
スペクトルから差し引けば良いのでしょうが、測定器の感度や、測定環境の安定性、チャンネル倍率の設定?、そして時間的な制約などなどのせいで、
ギザギザが残った状態のBGを使い、これもまたギザギザなスペクトルから差し引いて判断しないとならない場合も多いでしょう。

スムージング

そこで、目視による判断をする場合でも、ソフトにより計算であれこれする場合でも、ギザギザを見やすいように、
計算しやすいように滑らかに加工する、「スムージング」ということを行ったりします。

これもまた理想的には、ギザギザのスペクトルから、収束して滑らかになったスペクトルを完全に推測出切れば良いのですが、
残念ながらそう簡単には行きません。

ですので、スムージングをして、一見滑らかに見えても、それは、便宜的な操作であって、ギザギザの誤差の幅が無くなったわけではなく、
単に、見やすくなっているだけでまだまだバラツキがあるのだという点を忘れない方が良いだろうと思います。

ギザギザの効能

ギザギザがバラツキの幅だということは、逆に言うとギザギザの帯から抜け出ている部分、沈み込んでいる部分があって、
かつ、その部分の左右の幅が十分あるのなら、その部分は、かなり「確か」に、山であったり、谷である、と言える
でしょう。

十分な左右の幅は、そのエネルギー位置でのFWHMという分解能を示す数値によりますが、ご利用の測定器で、
例えばセシウム137だけのピークを見て、高さに応じてどれくらいの幅になるのか?というのを調べて慣れていれば
判断できるでしょう。

素人測定で使われるNaIやCsIでは、このFWHMの数値がが7%から9%、そして時には10%くらいのものもあるでしょう。
この数値は、そのエネルギー位置で、山の一番高い所と、ピークが周囲から盛り上がる根元の間の丁度半分の高さの
ピークの幅が、そのエネルギーの何パーセントか、というのを表します。
Cs137の場合、ピークの位置のエネルギーは、662KeV。ピークの高さの半分の位置の幅が、53KeVあるとすると、
53 / 662 = 0.0801 なので、分解能は8%ということになります。

逆に言うと、どう贔屓目に見積もっても、幅が最低53KeVよりも広くないギザギザは、(少なくともその時点では)
ピークと見なすに値しない可能性が非常に高い
、という事です。

この様に、ギザギザは、スペクトルを見難くするので厄介な反面、測定状態の情報を伝えてくれるので、
視覚的に判断する際には、役に立ちます。

ギザギザとチャンネルピッチ

1チャンネルあたり、どれくらいのエネルギーを割り当てるか?というチャンネル倍率の選択によって、ギザギザの様子も変わります。
一つ一つのチャンネルが、より素早く収束し、安定するのを目指すのなら、やたらとチャンネル数を増やさず、
1チャンネルあたり数KeVくらいの粗いチャンネル倍率の方が効果的です。

言い換えると、粗いチャンネル倍率にすると、とても細かなチャンネル倍率に比べて、ギザギザが収まって滑らかになるのに必要な時間が減ります。
この場合、ギザギザは、とても密生した草むらのような状態ではなく、カクカクとした折れ線みたいな感じになったりします。

ただ、スペクトルの収束が早くなる分、ギザギザのバラツキの度合いを視覚的に捕らえるのは、難しくなり、
興味のある部分が、ピークと言えるのか、それとも、バラツキの中なのか、判断するのに慣れが必要になるでしょう。

従って、ご利用の測定器の種類や、PCの性能にもよりますが、設定の違う二つのソフトを同時に走られて見比べたり、
それぞれで、色々な度合いのスムージングを施したりして、ギザギザの様子、その変遷、ピークの見分け方などについて、
練習することをお勧めします。




ギザギザの実際例

次の例は、メープルシロップ(おおよそ1.5Bq/kg程度のCs137汚染と推測)を厚さ約8センチの鉛の遮蔽の中で、
直径2.5インチ(63mm)長さ2.5インチ(63mm)のCsI結晶を使った10万円もしない「素人用」の測定器で測っているスペクトルです。

水色がメープルシロップ、黄色がバックグラウンド、そして、緑がバックグラウンド(BG,背景)を差し引いたスペクトルで、
測定開始から3時間ちょっと経った時点のものです。

まずは、対数表示を止めると、黄色のバックグラウンドのすぐ上で、水色のギザギザのスペクトルがあって、
そのほとんど同じ幅が緑の「差分表示」にも出ているのが、お分かりいただけるかと、思います。

ちなみに、もし、バックグラウンドと、測定中のスペクトルが、ほぼ同じ高さなら、差分表示の高さは
もっと低くなり、更に、そのギザギザも少し「まばら」に、なります。
また、測定中のスペクトルよりも、バックグラウンドの方が若干高めだと、差分表示のギザギザは、
下に沈んで、たまにちょこちょこと顔を出すだけになります。

上のスペクトルでは、まず、K40の1460KeVの所では、差分表示の緑のギザギザが完全に持ち上がって、
山になり、その下が「白く抜けている」状態なのが、お分かりいただけるかと思います。
そして、これは、バックグラウンドよりも、確実に測定中のスペクトルの方がその部分において高くなっていて、
K40のピークが「ギザギザが示す分の誤差の範囲より高い」ことが分かります。


同じスペクトルを対数表示にすると、また、印象が多少異なります。 K40のところの「抜けている」部分は、
より分かりやすいかもしれません。


今度は、同じスペクトルを点々で表示してみます。点表示の場合、「バラついている」のが、分かりやすい反面、
そのバラツキの中の傾向を見るのが、多少難しいかもしれません。

この場合、画面の一番下のゼロのところに点が貼り付いているのは、ギザギザがバックグランドよりも下に行っていて、
それが続いている領域は、「しっかりと抜けて」おらず、「山ではない」ことが分かります。


対数表示を解除すると、もしかするとバラツキの度合いや「白く抜けている部分」が分かりやすいかもしれません。


次のスペクトルは、グラフを線表示に戻し、縦軸のズームを「12」に変更したものです。

こうすると、K40の区間だけでなく、Cs137の領域も、若干「白く抜けている」のが分かるかと思います。


再度、対数表示にしましたが、強調する度合いを少なくしてみました。

この様に、スペクトルの表示法を色々と変えてみることで、見やすくなったりする場合がありますし、
変な勘違いを避けることも出来るかもしれませんので、ご利用のソフトにこの様な機能があるなら、
大いに活用しましょう。


最後に、オレンジ色の矢印や線の下、そして三角を付けた部分は、「明らかに」ギザギザが
バックグラウンドよりも高くなっています。

また、K40とCs137の領域では、「白く抜けている」部分の持ち上がりの幅が、
この測定器の分解能(662KeV付近で50KeVちょっとの幅)よりも大きい事から、
ほぼ確実に、そこにバックグラウンドよりも高くなった「山(ピーク)」がある、と言えるでしょう。

逆に言うと、この様な明白な山が無い場合、スペクトルを見て「ピークがあります」とは、
はっきりとは言えない
と私は思いますし、たとえ少し「白く抜けている部分」があっても、
その高さがギザギザの上下の振れの幅より高くなかったり、その幅が分解能と比べてとても狭かったりする場合は、
本当にそれはピークなんでしょうか?と、私はかなり疑問に思います。

ただし、もっと長時間測っていると、あまり明確には見えなかったピークがはっきりしてくることがあるので、
その時点で見えないからと言って、「何にもない」とは言い切れませんが、
その時点で見えないものを見えるかのように言ったり思い込んだら、それは間違っていると思います。

もう少し詳しく見てみると、K40の1460KeVの山の右側では、水色のギザギザが
黄色のバックグランドの上下に揺れているのが分かるかと思います。
従って、ウラン系やトリウム系の成分が多くないことが分かります。

これに対して、K40の1460KeVの山の左側で、コンプトン散乱の丘に当たる
1200KeVよりもエネルギーの低い左の部分では、
水色のギザギザが、黄色のバックグラウンドよりも高いところで揺れていて、
わずかではありますが、コンプトン散乱の持ち上がりも見えていることが分かるかと思います。

そして、Cs137の662KeV付近では、それが更に持ち上がって「山」になっています。




下のスペクトルは、東京近郊の汚染された土を上の例と同じ測定環境で測ったものです。

人によっては、オレンジの矢印を付けた所にセシウムの山が「見えてしまう」かもしれませんが、
実は、このスペクトルはバックグラウンドを差し引いたのではなく、全く同じ条件で同じ時間、同じものを2度測った二つのスペクトルを
差し引いたものなのです。

従って、理想的には、全く同じスペクトルになって、差がほとんど無い筈なのですが、実際には双方ともに30分というやや短い時間
測っただけのスペクトルということもあって、スペクトルがまだ滑らかになっておらず、それぞれが少し違った形で「バラついている」ものなのです。

なので、上の図で見えているのは、その「バラつき方」の違いであり、セシウムのピークなどは、ありません。


下のスペクトルも、全く同じことです。矢印を付けた「ヒゲ」は、たまたま「それらしいエネルギーの位置」に出ただけで、
「ピーク」ではありません。


「差分」を出した、二つのスペクトルも表示すると、基本的に同じ形で、同じ高さの(本物の)ピークがあり、
バラツキ方が違うだけなのがお分かりいただけるでしょう。(少し校正がズレてますが)


「対数(Log)表示」にすると、スペクトルのしたの方が強調されるので、それぞれのギザギザの幅とそれらの違いが
さらに増幅されて、慣れていないと、あたかもピークであるかのように思ってしまったりするわけです。
この様な勘違いは、スペクトルが「滑らかになる」までの様子をしつこく何度も見ると、減っていく(はず)です。
あるいは、ギザギザの振れの幅が、測定を開始した直後は非常に大きく、それが段々収まってきて、
ギザギザの幅や暴れ方が小さくなり、収束して、滑らかになる、というのをきちんと理解すれば、無くなります。


同じスペクトルを、今度は太線表示を止めて、細い線で出すと、少し分かりやすいかもしれません。




今回は、分かりやすいように、わざとスペクトル形成は遅いものの、ギザギザの様子が見やすい
細かなチャンネルピッチを使ってみましたが、もっと粗いチャンネルピッチでも、基本的には同じことです。

それが「確実に」山(ピーク)と言えるかどうか?は、持ち上がり方が明白で、「白く抜けている」かどうかと、
その領域の幅が、ご利用の測定器のそのエネルギー位置での分解能と比較して十分広いかどうか
そして理想的な測定の場合には、その持ち上がり方が「釣鐘状」になっているか
検討すれば良いでしょう。

それらの条件がそろってなければ、その「山」は、もしかしたら単なるギザギザがなせる偶然の産物であったり、
「確かさ」がかなり低くで、ギザギザという誤差の程度の視覚的な指標から抜け出てない程度のものでしかない、と、
そんな風に私は思います。

もちろん、もっと長く測定したり、もっと効率を高めた測定をすれば、「山」がはっきりと現れてくる可能性もありますが、
それは、その時になって初めて「確かに」言えることであって、それまでは、単なる「推測」に過ぎません。


Maple Syrup SpectrumsMaple Syrup Spectrum N3 に上記のメープルシロップの測定におけるスペクトル形成の例がありますので、ご覧ください。

Sirouto Sokutei CourseBasics Of MeasurementQuick And EasySpectrum FormationVisual Peak Detection や Channel Pitch にも、関連事項がありますので、ご覧ください。

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Last modified : Sun Apr 27 05:57:10 2014 Maintained by nkom AT pico.dreamhosters.com